サロン・ド銀舎利

言えぬなら記してしまえとりあえず

介入できない覗き窓

数学や倫理、化学、国語が好きだった。
覚えることが少なくて済むので、少しの勉強ですぐに点数が稼げたからだ。こういう分野は受験の役に立つ。

数学は定理を、倫理は思想のフレームを、化学は公式を、国語は要約の手法を。最低限のしくみがわかれば、比較的急速に教科間の横の繋がりができる。化学現象は幾何であり、数学は論理であり、国語は思想である。
物理は10代のころは概念自体を理解できず、からっきしであったが、20歳を過ぎてから良き師に恵まれ、生業とするまでに至った。
物理は世界をアバウトにし、出来事を捉えやすくする大人のツールだ。
とにかく、よく、「役に立つ」。

近ごろ夢中になっているのは歴史、地学、生物。
覚えることばかりの学問だ。
ありのままを観察する、忍耐の分野だ。
役に立たない私、私の中の役に立たない部分。どこから来たのか、どこへ行くのか、何が起こっているのか、何を起こせないのか。何も生まない、何も変えられない私を見つめる勉強だ。私が不在の勉強だ。
私はプレート移動を止められない。酸素を吐き出せない。アタワルパを救えない。微分方程式が解けても、アウフヘーベンできても、メッキ加工を施せても、感情を律に載せられても。

とうとう私は学問をはじめたのだ。