サロン・ド銀舎利

言えぬなら記してしまえとりあえず

何にも教えられないよ

建築家になりたい人に建築を教える。
医者になりたい人に医術を教える。
芸能人になりたい人に芸を教える。

それは難しいのだ。

建築をやるために建築家になる必要がある。
医術をやるために医者になる必要がある。
芸をやるために芸能人になる必要がある。

これならばわかる。
しかし。

建築をやりたいなら建築家になる前から線を引いている。
医術をやりたいなら医者になる前から生き物を見ている。
芸をやりたいなら芸能人になる前から体を動かしている。

人間になりたい人に遊びを教える。
それは難しいのだ。
遊ぶためには人間になる必要がある。
これならばわかる。
しかし。
遊びたいなら人間になる前からよそ見をしている。

何かにならないとそれができないならば、あなたがやりたいのは、あなた以外の何かになることだ。

何かにならなくても既にやっていることがあれば、あなたはあなた以外の何かになる必要はない。

名前のない仕事をすればいい。
夢中でそれをやればいい。
逃げたきゃとことん逃げればいい。
わたしはあなたを褒めない。
褒められなくともやらずにいられない人間だけが残ればいい。


その行為に設計という名前があることを知る前からわたしは何かを設計していた。
わたしに設計は教えられない。
わたしは生まれながらにして設計者だったからだ。
暇だから設計している。
暇さえあれば考えている。
楽だからここにいる。
言いたいことを言う。
言った責任はとる。
間違えたら謝る。
疲れたらサボる。
病気になれば治す。
欲しければお願いする。
断られれば代わりの何かを差し出す。
会社の金で、他人の力で暇をつぶしている。

できればあなたにもそうしてほしい。
あなた以外の何かであるために黙って我慢しているの、わたしは知っている。
若い時間は有限だ。
まだ青春の最中だ。
もっと傷つけ。
立ち向かえ。
負けろ。
泣け。
怒れ。
よそ見して遊んで、まずはあなたという人間になってくれ。
そこからがスタートだ。