読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

サロン・ド銀舎利

言えぬなら記してしまえとりあえず

大聖堂の建設現場

今週のお題「行ってみたい時代」

12世紀末の北フランスに行ってみたいです。

大聖堂の建設現場で働きたいですね。

私には数年に一度、ゴシック大聖堂ブームと源氏物語ブームが交互に訪れます。マイブームというやつですね。ゴシップ大好き人間としては日本の平安時代の女官も下世話な意味で捨てがたいのですが、ゴシップよりゴシックということで、今回は中世の北フランスでおねがいします。

えっ、はてなの中の人がデロリアンを用意してくれるんですよね?この企画。

さて、この時代についてすごくふんわり説明すると、「暗黒時代」と呼ばれた中世の西ヨーロッパ、各地のカトリック教会が莫大な予算をかけ、大聖堂の建設ラッシュが始まりました。建設技術の革新で、ちょっとありえないほどの高さのものが建てられるようになったのです。

イングランドではじまった黎明期のゴシック様式の大聖堂建設についてはケン・フォレットの「大聖堂」という小説(映像化もされた)に建設現場の様子や教会権力に関わる骨肉の争いなど、きな臭い人間模様がいきいきと描写されています。もちろんフィクションですから、脚色もあるでしょうし、想像力で補っている部分も多いと思います。しかし、石切りの方法から、治具を用いた部材の加工、揚重装置、天井アーチ部分の木造の仮組についてなど、細部についてこれほどありありと表現するには膨大な量の考証がなされていると思うんですよね。なので、私の中での中世暗黒時代の想像図は概ねこの小説で描かれているものが元となっています。あとは、ベルセルクに出てくる、よく略奪にあう感じの寒村ですね。


天を突き刺しそびえ立つ2本の塔、冷たく静謐な空間にうつろうステンドグラスを湛えた薔薇窓、聖堂全体を包み込む無数の指のように伸びたフライングバットレス。設計図に描かれたこれらの想像の姿をただ地道にひとつひとつ積み上げる現場で、揚重装置の軋む音、親方の怒号、砂埃と汗のにおい、そして一日の作業後にしけた酒場で仲間と飲む水っぽいエール。

人間ですから当時も今も変わりなく、ほとんどの人たちは、偉い人から言われた通りにただ毎日働いていたと思います。でもきっと、その中の一握りは完成した建物が人類の歴史に名を残すものになると確信していたはずです。工期は実働で何十年も、長いものは百年以上かかりましたから、みどころのある若者がより技術を要する持ち場や指導的な立場に成長してゆく物語もあったでしょう。また、エース人材が怪我をしてしまったり、現場でのささいな揉め事が肥大化するなどで、工事をストップせざるを得ない状況もあったと思います。そんなドラマも興味深いです。

「あいつは要領ばかりで、辛い仕事をこちらに押し付けてくる。」とか、「この程度の石も運べないくせに威張りやがって。」とか、「給料が安い。」とか、愚痴を聞くのも楽しみです。「おい、この前の日曜日、大工のシャルルと酒場のアンナが二人で森に出掛けて行くのを見たぜ。ゲヘヘ。」とかもいいですね。あ、これはゴシップでしたね。


現代では、公共建築は設計段階で既に精巧なCGで完成予想イメージが見えますから、竣工時の驚きは少し薄れてしまいます。12世紀の行商人が北フランスを訪れ、初めて大聖堂を目の当たりにした時は、それはびっくりしたでしょうねえ。

そんなわけで、私の行ってみたい時代は12世紀末の北フランス。当時、人力主体にもかかわらず、誰も想像のつかないような大規模で美しい建築を造っていた人たちのリアルな「こんなのやってらんねーよ!」と、「俺が生きてるうちに完成すんのかな…」と、「みんなもっとちゃんとやりなよ〜。」を、ぜひ生で聞いてみたいです。