読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

サロン・ド銀舎利

言えぬなら記してしまえとりあえず

祖母と愚痴

認知症の一歩手前にいる祖母の話を1時間くらい傾聴するのが休日のわたしの仕事だ。わたしがニートをやっている時期に、居場所を提供し、昼食も作ってくれた恩があるので、わたしにはこれをやる義理がある。

年寄りの話は同じネタの使い回しによって成り立っているが、アプリゲームのガチャのように、よく出るお馴染みの話と、レアな話がある。祖母の気紛れに任せて自由に話してもらい、こちらは「今日は☆4のレアがでた!」とかぼんやり思いながらそれなりに相槌を打っていれば、1時間くらいでひとしきり満足していただける。

ただし、これは孫だからこそできる感情労働で、実子にはきつい。実際、わたしが母親の話をただ黙って1時間聞いていられるかというと、想像しただけで頭痛がする。やはり途中で何か余計な意見をしたくなるし、親も何かわたしがムッとするようなことを言いたい衝動を抑えられないだろう。親子の会話は事務連絡が7割で十分である。

さらに、祖母はわたしの母にとってはそこそこの毒親実績があり、事実、一人の女として見ると割と性格が悪い。少なくとも、友達にはなりたくないタイプだし、同僚でも多少持て余すだろう。わたしとて人様に褒められるような性根は持ち合わせていないが、だからこそ、嫌な女は嫌なのだ。具体的にはどう嫌かというと、崇高な理想主義者でもなければ、現実的に質実剛健でもなく、都合の悪いことを他人のせいにして、立場の弱いものを心根で見下しながら寄りかかり、他人のために自分を犠牲にすることもないという、書いていて嫌になってくるような性格なのだ。孫には優しいのだが、孫に対して娘(わたしの母)の悪口をいうのは、まあまあアウトだと思う。

そんなこんなで、話のネタは、女学校時代は戦時中で勉強どころでなかった話、小姑に虐められた話、兄弟が若くして何人も死んだ話、夫が育児をしなかった愚痴、その夫が早逝して働かざるを得なくなった苦労話、金持ちへの妬み、息子(わたしの叔父)の離婚した元嫁の悪口など、負の感情を伴うものばかりである。なので、聞いている方はわりと気が滅入る。かといって、何十年もかけてこびりついたエピソード集なので、そこに新たにポジティブな意味を見出したりすることもないのであろう。彼女は不幸な自分が居心地よく、優しく慰めてもらう権利があると信じており、他人もそんな自分と同じ考えであると疑わない。

わたしは仕事が好きだ。仕事ができることに感謝している。しかし、仕事が嫌いで辛かった祖母からは「忙しくてかわいそうだ」と呪いをかけられる。

わたしは生後半年で保育園に預けられた。母は母乳が出なかったらしく、わたしも兄弟もミルク育ちだ。その頃の記憶はないが、わたしは家にいるより余所に出掛けるほうが何となく気楽だと漠然と感じていた。母が専業主婦になってからは幼稚園に通ったが、それは自分に課せられた義務だと思っていたので特に寂しさもなく、友達と遊ぶのは苦手だったが勉強やお稽古は好きだし得意だった。なので、わたしは自分の子供を乳飲児のうちに保育園に通わせることにさほど罪悪感も抵抗感もないのだが、祖母からかわいそうだと言われてしまった。かわいそうなのは誰なのか、わたしにはまだわからない。保育のプロからしっかりした生活リズムを身につけさせてもらえるなら、わたしがだらしなく育てるより何倍も子供本人にとっては良いことのような気もするし、わたしが好きな仕事を出来たほうが我慢して恨みつらみを溜め込むより周囲にとっても良いことのような気がする。そもそも、わたしの仕事は社会に有益で、必要であるからやっている。

子供はわたしが産むけれど、わたしは必要なものやことを与える以上でも以下でもない他人なのだ。妊娠するともっとパートナーにたいする親密さのような感情が胎児に対してドバドバと湧いてくるのかと思ったが、やはりまだ「すごく気になる腫瘍」程度の認識なのだ。

その段階で「かわいそう」という言葉の呪いをかけられても、戸惑いと不快さが半々でこみ上げるだけだ。

 

ただ、わたしは必要な仕事はきっちりやりたい派の人間なので、ここに愚痴を書き散らしながら孫業は続けるつもりである。傾聴は認知症の進行を遅らせるのだ。実家で世話になっている以上、わたしにも家族としての役割を果たす必要がある。今は両親には甘えて祖母に甘えさせるのがわたしの役割であり、半年後にはスムーズに夫に甘えて子供に甘えさせるためのトレーニングでもある。各々が自分の役割を果たし、安定した居場所があることが、わたしの理想の家庭だ。誰かを仲間はずれにしたり、自分の役割を誰かに押し付ける人がいたりするような家庭は嫌だなと思う。そしてそれは職場でもどこでも同じことだ。

 

で、こういうふうにクソ真面目に色々考える自分はとても好きだ。