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サロン・ド銀舎利

言えぬなら記してしまえとりあえず

だったら何か下さいよ

おまえは常に下から目線で弱いから経営者にはなれない。経営者はもっと自信に満ち溢れて上から目線な人間がなるものだ。そういう強さがなければ仕事はもらえないだろうから、サラリーマンを続けた方がいい。
という主旨のことを、ベテランサラリーマンにごくやんわりと言われた。

わたしは、不自由なサラリーマンでいるのが辛くて逃げ出したいから、自分で事業をやるしか道はないんだ。その希望を捨て、ただ我慢して残りの人生の過ごすくらいなら今すぐ死んだ方がましだ。霞を食って生きていけるなら話は別だけど。
という主旨の反論をしたら、分かり合えないということを分かってくれた。

望む望まざるに関わらず沢山の物を持って生まれた人は、失う怖さに打ち震える。何も持たずに旅に出ようとする愚か者に対し、多くの装備や強い仲間がないなら旅に出ない方がよいと、的確な助言をくれたのだ。

それに引き換え、わたしは目に見える物はほとんど持たず、丈夫な体と地図を一枚渡されて生まれた。側から見れば質素な持ち物かもしれないが、ここに来るまでにずいぶんと沢山のガラクタを得たり失ったりしてきたのだ。立ち止まれば、ただ野たれ死ぬ世界で。

あなたが飢えていれば、何か温かい食事を用意すると言ってくれる酔狂な人間も数人いる。わたしはその数人にしか食事を乞わない。
何故なら、この世は飢えている人間に毒入りの食べ物を差し出す人間がほとんどだからだ。

わたしを縛り付けようとすることを言う人は、自分自身が沢山のしがらみに縛られて身動きがとれないのだ。しかし、縛られていても手の届く範囲に沢山のものを持った人間が、何も持たない人間を縛り付けようとするのは自覚なき暴力だ。いかにわたしが何も持っておらず、うろうろしなければ何も得られず野たれ死ぬ状況であるか、根気強く説明する他ない。

多くを持ったおっさんが何も持たない年下の女に的確なアドバイスをできるようなことはほとんどないぜってこった。せいぜい金か知識かノウハウをくれ。今まで、見返りを求めずにそれらをくれたおっさんは3人だけだった。そして3人とも、経営に失敗した経験を持つおっさんだった。失敗して一度は多くの物を失っても、自分の大切な宝物を他人に気前よく差し出す心意気は、この世でも類稀なる美しいものではないか。

事業に成功しても幸せ、失敗しても気前のいいおばさんになれるなら幸せ、だったらやってみた方がいいに決まっている。