サロン・ド銀舎利

言えぬなら記してしまえとりあえず

理系女のひとりごと

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中学2年の段階では理系に進むことを決めていた女として何か書けないかと思って書く。個人的な経験に基づく雑感です。根拠とかデータとかは一つもありません。

 

1990年代後半。当時は就職氷河期と呼ばれる大不況時代。大卒でも就職できない若者のニュースがテレビに流れ、この先の日本が暗い時代に入り、自分の未来は困難なものになるだろうことは、元来後ろ向きな性格のわたしにとって想像するに容易だった。

算数も数学も得意という程ではないわたしだったが、「理系に行かないと食いっぱぐれて死ぬ」という世間に漂う強い呪詛を受信し、追い立てられるような気持ちで勉強した。

当時、大黒柱が病に倒れた我が家に「女は結婚すればなんとかなる」という概念はなかった。母親が医療系の免許もちだったので、「最悪どうにかなる」という根底の安心感もまた、わたしの理系選択への意志を強固なものにした。

 

中学3年から高校2年あたりの数学は、どんどん論理とか国語っぽい要素が増えてゆき、分野により乱高下しながらもトータル的にはわたしの数学の成績は伸びていった。なので、脳のメモリが小さく、算数の繰り上がり計算が苦手でもあきらめないでほしい。

さらに高校数学は分野が多岐に別れるためセンター試験では得意分野の選択ができる。得意なものから先に取り組んで理解すれば、ほかの分野が急にわかるようになることもある。わたしは「順列組み合わせ・確率→数列→関数→平面幾何→微分積分複素数→ベクトル→行列」の順番で理解できるようになった。並べるとカリキュラムとはずいぶん違うのがわかるだろう。ちなみに学校の授業にはほとんどまったくついていけていなかったので、高校数学はほぼ参考書でマイペースに自習した。

また、ベクトルがずっとわからないままだったので、物理の力学分野が高校3年の夏までさっぱりちんぷんかんぷんだった。楽しいと思えるようになったのは、さらに3年後の大学3年で、ものすごく教え方の上手い准教授からコンクリート工学を学んだ時になる。

何がいいたいかというと、「理系科目が得意だから理系に進んだ」のではなく、「理系に進みたいから仕方なく勉強した」のだ。①進みたい方向性があり、②それに必要な条件と道筋さえわかっていれば、生徒児童はわりと勝手に勉強するものだ。もちろん教師や親のサポートや、安心して勉強できる環境も大切ではある。

ちなみに大学の工学部で出会った同級生の女性もほぼ「やりたい先行型」だった。

 

高校2年で3年からの文理選択を迫られた時、「工学部に行きたいから理系に進む」と両親に告げた。母親には「あんた数学も物理も全然出来ないのに理系になんていってどうするの?しかも女の子が工学部なんか行ってどうするの?」と非難されたが、父親には「一浪まではしていいから頑張れ」と励まされた。父親も工学系の大学を卒業していたことが大きいだろう。

土壇場の高校3年の冬、短期で点数が伸びる理系科目に本気で取り組み、わたしはなんとか地方の工学部に後期試験で滑りこむことができた。

 

さて、大学卒業後の進路はどうだったかというと、ロールモデルなしの状況でまあ色々と普通では経験できない大変さがあった。残念ながら、もちろんセクハラもひどい。

しかしながら「もう食いっぱぐれることはないな」という漠然とした自信は身についた。自信の源は技術の内容だったり、恥ずかしい失敗をしてきた経験だったり、うつ病の療養中に認知の歪みを矯正したことだったり色々だが、だいたい「目標を立ててそれにむかって決断し、行動する」というくくりで語れるようにも思う。

もちろん「目標通りできなかったワイはクズや……」という経験のほうが圧倒的に多いのは言うまでもない。たまたま自分にも達成できたのが「理系人材として働く」という項目だった。それの要因として、将来への危機感、勉強を続ける集中力、女性の進学に対する父親の理解、母親の家計管理による学費の準備、同級生の進学への意識の高さなどあるが、「理系科目が得意だった」とかは前述のとおりまずないし、「理系の女性が不足している世の中を変えたい」とか、「目立ちたい」とかはあまりなかったように思う。

 

そんなこんなでわたしが思うのは、せめて「これがやりたい」という女児に対して「それは女には出来ない」と言うのだけはやめたげてということだ。あと、「レゴはお兄ちゃんのおもちゃ、あなたにはリカちゃんよ」みたいなのもやめたげてください。少なくともわたしはずっとレゴやってた。

また、あなたが二次産業に従事しているのであれば、事務の女性に技術的なことをどんどん覚えてもらってほしい。最初は「こんなのわたしの仕事じゃない」って言ってキレられるけど、根気よく続けてみてください。そしてスキルが上がったらその分ちゃんと給料もアップしてください。

 

最後に。大学の同級生の女性の殆どは上場企業勤務の大卒男性と結婚して専業主婦になり、夫の転勤先について行き、一人で子育てに奮闘しているという典型的な状況だというのは書いておかねばなるまい。

学生時代あんなに洗練されたビルの設計プレゼンをドヤ顔で披露してた負けず嫌いの優等生A子がフェイスブックに「子供の洋服作りました~」みたいなのをアップしているのを見ると、元・劣等生で現・独身社畜のわたしとしては「いやいやいやいや!!週3日、半日でいいからうちの会社で働いてよーーー!!!こっちに戻ってきて手伝ってよもーーー!」と思ってしまう。もちろん彼女の幸せは彼女自身が決めることだし専業主婦の仕事が大変でやりがいのあることだっていうのも頭では理解している。でも思ってしまうのだ。やばいぞこれは相当余計なお世話って叩かれるやつだぞ。

しかし、いつか彼女が「第一線で仕事がしたい」と思った時にすんなり復帰でき、将来彼女の娘が進路に迷った時に「理系はいいわよ!」と背中を押せるような理想の世界を夢見ずにはいられないのだ。

ま、それまでわたしはこっちの阿修羅道で頑張るからさ。