サロン・ド銀舎利

言えぬなら記してしまえとりあえず

蒸留された夜を吐く

あの娘がシャンソン歌うように

作家が葉巻ふかすように

女優が笑いもらすように

学者がため息つくように

 

ここのすすけたサロンじゃあ

インテリゲンチャも大衆も

赤いベロアのソファの熱で

夜を吐き出すフラスコさ

 

ガラスの球に注ぐのは

琥珀色したシロップと

嘘と飾りとうわさのかけら

 

さあさあ、もっとこぼしなさいな

 

深い紫紺の湿った煙が

フロアいっぱいに満ちて来りゃあ

東の空が白んでも

スズメがチュンチュン鳴こうとも

あんたのグラスが空になるまで

ドアのランプは灯しておくさ。